【Vol.09】菜鮮箱・大澤進|失敗があるから農業は楽しい

お話を伺ったのは 大澤進さん
1952年8月11日、北海道出身。東京都内でサラリーマンとして活躍後、50歳の節目となる2002年に退職し、一宮へ移住。千葉県立農業大学校の新規就農者向けの短期コースに通って農業の基礎を学び、就農者としての生活をスタート。2016年からはNPO法人すっぱぁに所属。すっぱぁふぁ〜む農業指導リーダーを務めながら、多くの障がい者の雇用の場を創り出している。
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「人生二毛作」を合言葉に農家に転身

「できれば、あと10年ぐらいは農業をやっていきたいですね。そのためには、健康でいなきゃいけない。健康でいられる時間を長く持ちたいというのが、今の私の野望と言えるかもしれません(笑)」

そう話すのは、現在68歳、一宮で農業を営み、無農薬野菜の直売所「菜鮮箱(さいせんばこ)」を運営する大澤進さんだ。もともと都内の大手企業に勤務していたが、50歳の時に脱サラして農家に転身。以降、農業一筋でこの一宮で暮らしてきた。

「『人生二毛作』という言葉が当時は流行っていまして。農業で『二毛作』とは、同じ畑で2種類の作物を栽培することを言いますけど、それと同じように、第二の人生として畑違いのことをやってみようと。同僚には早期退職をして新しい事業を起こす人も多くて、私もそうしたいと思っていたんです」

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サラリーマン時代は地球環境に携わる仕事をしていたこと、また、北海道生まれで田舎育ちであったことから、農業の道へ進むことを決意。東金市にある千葉県立農業大学校の新規就農者向けのコースに通い、農業の道を歩みはじめるとともに、移住先を一宮に決めた。

「一宮に決めた理由は、子どもたちが東京に住んでいたので、そこへのアクセスの良さが一つ。また、一宮の自然環境は農業に適していたことが一つです。他には長野や山梨といったところも候補だったんですけど、冬は寒いという話を聞きまして。冬場も畑仕事をやりたいと思っていたので、それなら千葉がいいんじゃないかと。あとは、妻が神奈川県の茅ヶ崎市出身で、一宮と町の雰囲気がよく似ているということで賛同を得られたというのもあります(笑)」

一宮はよそ者を受け入れる開放性がある

いざスタートした、農家としての第2の人生。とはいえ、「基礎は学べましたが、学校に行けば農業がわかるっていうものじゃなかった」と話すように、最初はとにかく失敗の連続。そんなときに助けてくれたのが、この町の住人たちだった。

「農業をやっているとね、近所のおじさんやおばさんが、世話を焼きにきてくれるんですよ。種まきの仕方も、田んぼの耕し方も、最初はわからなかったけど、仲良くなった人たちに教えてもらいました。この町はもともと別荘地なので、知らない人を見かけることに慣れているのかなと思います。私がここに来たときも、『変わったやつがきたぞ』と見ていたと思うんですけど、その目はどこか温かいんですよ。よそ者に対しても警戒心が薄い、その開放性に助けられましたし、そのお蔭で農業を続けられたと思います」

この町に移住してきた人々が口を揃えて言う「一宮の人々の温かさ」を感じながら、農家としての腕を磨いていった大澤さん。2016年には、一宮にある障がい者支援施設「NPO法人すっぱぁ」と出会ったことで、農業と福祉の連携を実践する新たな仕事もスタートした。

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「私の田んぼと、すっぱぁの田んぼが、たまたま隣り合わせだったんです。で、彼らのやり方を見ているとまぁ酷かったので、そこで話しかけたのがきっかけです。話していくうちに、彼らの活動を手伝おうという話になりました。ただ、やるからには中途半端な関わり方でなく責任を持ってやりたかったので、私の所有する農地、機械、施設の全てをすっぱぁに無償貸与して、私自身もすっぱぁの職員となりました。そうして誕生したのが、『すっぱぁふぁ~む』です」

「すっぱぁふぁ~む」は現在、地元農家の支援もあって田んぼ8反、畑8反、養鶏は300羽以上の規模を誇る。日々、ニワトリの世話から収穫作業や草取り、種蒔きなど、10人弱の利用者(「すっぱぁふぁ~む」で働く障がいを持った方たち)の雇用の場を創出しており、そこで収穫した野菜や有精卵などを、「菜鮮箱」で販売している。

「言い方は良くないかもしれませんが、彼らと接するのは面白いですよ。これまでの人生で関わってこなかったタイプの人たちと一緒に仕事をするわけですから、極めて新鮮な気分で取り組めます。農業って、収穫ができるじゃないですか。"実り"が目に見えるから、みんな嬉しい気持ちになる。ここを"卒業"して、4月からは県庁で働くことになった人もいて、そういうところでの嬉しさもあります」

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農業を続けることで健康であり続ける

一宮での生活も、気が付けば20年の時が経過した。決して成功ばかりではなかったものの、「ここに来てよかったと、心の底から感じています」と満面の笑みで話してくれるその顔を見ると、この町での生活の充実感がまざまざと伝わってくる。

「本当にね、不便さがない。いや、正直なところ不便さはあるんだけど、買い物は茂原のほうへ足を伸ばせば事足りるし、南房総や銚子のほうへ遊びに行ったりもしやすいのがこの一宮。ちょうどいい田舎町だと思いますよ」

冒頭の言葉の通り、大澤さんにとって、もっとも大切なことは健康で生きていくこと。そのためには「農業の現場から離れ、ゆっくりと過ごしていくのも一つの生き方なのでは?」と聞いてみると、返ってきたのは「いや、ゆっくりしたいとは、なかなか思わないんだよ」という答えだった。

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「自分の健康を支えているのはいったい何なんだろうなと考えると、やっぱり農業を続けていることなのだろうと思うんですよ。毎日毎日、多少いやなことがあってもここに足を運び、やることがいっぱいある。だから、ダラけてなんていられないんだよね。今年で69歳になるから、同世代の友人はゆっくり過ごしている人もいて、生き方は人それぞれあるけれど、自分の仕事を持っていて健康に生きられているのは、やっぱり嬉しいことですよ」

決して、楽な生き方ではない。でも、楽ではないからこそ、達成感や楽しさをそこに感じることができる。最後に聞いた「農業をやっていて一番楽しさを感じることは?」という問いの答えも、実に大澤さんらしいもので、その生き方を表しているものであった。

「失敗と成功がね、常にグルグルと回っていることですよ。今年はうまくいったとしても、来年同じようにやったら失敗することもある。その逆で、前の年に大失敗したとしても、今年はバカみたいにうまくいくこともあるのが農業というもの。失敗したことがない農家なんていないと思います。何十年もやっていても失敗することがあるし、それが農業の面白みでもあるんですよ」

農業を続けることで、健康に生き、人生の楽しさを知ることができる。その喜びを肌で感じながら、今日も大澤さんは野菜を育て続ける。

↓インタビュームービーはこちら

施設情報
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菜鮮箱(さいせんばこ)

NPO法人すっぱぁが運営している、こだわりの無農薬野菜(一部、低農薬栽培物を含む)の直売所。新鮮な野菜の他にも、お米や、米粉を使ったパンなどの加工品も販売。朝に採れたばかりの平飼有精卵はおすすめ。

住所 :千葉県長生郡一宮町一宮2220-3
電話番号 :0475-42-1118
営業時間 :13:00~17:00(念中無休、年始を除く)

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